胃腸が弱いと妊娠しづらい? ~脾は後天の本~
妊活のご相談で体調を伺っていると、胃腸についてのお話が出てくることがあります。
「もともと胃腸が弱くて、食べるとすぐお腹がいっぱいになります」「ストレスがかかると、胃が痛くなって下痢をします」「ちゃんと食べているつもりなのに、太れないんです」
妊娠を考えると、卵子や子宮、ホルモンに意識が向きますが、漢方では「何を食べているか」だけでなく、「食べたものを体がどう受け取っているか」というところから考えます。
その働きを担うものとして、「脾胃」を重視します。
漢方の「脾胃」とは
漢方でいう「脾」は、現代医学の脾臓そのものを指す言葉ではありません。
飲食物を受け取り、体に必要なものへ変化させ、全身へ運ぶ働きを「運化」として捉えています。
一方の「胃」は、飲食物を受け入れ、消化の過程に関わる臓として考えます。
そのため、漢方でいう「脾胃」は、現代医学でいう胃腸という器官だけではなく、食べたものを体の営みへつないでいく働きまで含んだ概念です。
食事内容に気を配っていても、食後に胃が重い、少量ですぐ満腹になる、便通が安定しない、食欲が落ちているといった状態があれば、漢方では「何を食べるか」と同時に「脾胃がどのように受け取っているか」に着目します。
「脾は後天の本」といわれる理由
「先天」は、生まれ持った生命の基礎に関わるものを指し、主に「腎」との関係から考えます。
それに対して「後天」は、生まれた後の日々の生活を通して体を養い、生命活動を維持していくものです。
人は生まれてから、毎日の食事によって体を養っていきます。
脾胃が飲食物を受け取り、その精微を体に必要な気血へつなげていく。
この働きによって、日々の生命活動を維持していくことができます。
その意味で「脾は後天の本」とされます。
妊娠に向けての体づくりにおいても、「腎精」という先天的な要素とともに、毎日の食事から体を養う脾胃の状態まで考えることがポイントになります。
脾胃が弱っている方に対しては、「妊活に良いものをもっと摂りましょう」と考えるのではなく、まず食べたものを体が受け取り、運化できる状態に整えることが優先されるのです。
胃腸の状態は「血」の状態にもつながる
脾胃は、気血を生み出す働きとも深く関係しています。
食欲が落ち、食事量が減っている。
消化がうまくいかず、身体を養うための材料を十分に取り込めていない。
このような状態が続くと、漢方では気血を生み出す働きの不足についても検討していきます。
たとえば、経血量が以前より減っている、生理の後にだるさが強くなる、顔色がすぐれない、髪や肌の乾燥が気になるなどは、血虚=気血の不足を表しています。
「何を足すか」より、まず「受け取れるか」
妊活では、卵子に良いもの、女性に必要な栄養素など、「何を摂るか」という情報がたくさんあります。
必要な栄養を摂ることは健康の基本ですが、胃腸が弱い方の場合には、今のお体がそれを受け取れる状態か、という点も考えてみる必要があります。
胃もたれや食欲低下が続いている方に、さらに食事量やサプリメントを増やすことが負担になる場合もあるからです。
漢方では、不足しているものを補う「補法」だけでなく、余分なものをさばく「瀉法」も含めて、その方の状態に合わせて考えます。
妊活の緊張も、脾胃に影響する
妊活の日々では、通院や治療への緊張、仕事との両立、睡眠不足などが重なることもあります。
漢方では、強い緊張やストレスによって肝の疏泄が乱れ、その影響が脾胃に及ぶというつながりも考えます。
「治療が始まってから胃が重くなった」「移植が近づくと食欲が落ちる」という場合にも、胃だけを切り離して考えず、肝と脾胃の関係も見過ごせないポイントです。
胃腸から妊活を見直す
胃腸の弱さが妊娠しにくさに直結するわけではありませんが、毎日の食事からスムーズに気血を生み出すことができているのか、ストレスや生理周期との関わりも見ながら、体調を整えていきます。
「何を飲めばいいですか?」の前に、「食べたものをきちんと活用できる状態か」というところから見直してみるというとらえ方も、体づくりの基本にあります。
「脾は後天の本」という漢方の考え方には、毎日の食事を体の営みへつないでいくことの重要性が込められており、その働きを整えることは、妊娠への体づくりを考える一つの入口になるのではないかと思います。
漢方薬・生薬認定薬剤師 樫谷陽子
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