柴苓湯で解決しますか?!

不妊治療を続ける中で、「不育症が疑われるので漢方薬「柴苓湯」を飲んでいます」とお聞きする場合、お客さまの中では柴苓湯は妊娠への命綱かのように思われていると感じることがあります。

近年、「柴苓湯」は、不育症の領域で使用されることがある代表的な漢方薬になっているようです。

しかし、漢方の立場から見ると、「不育症だから柴苓湯」という考え方には注意が必要だとも思います。
柴苓湯は優れた処方ではあるものの、漢方がもっとも大切にする”個々の体質に応じて処方決定する”という理念から外れてしまっているからです。
要するに、不育症だからといって、すべてのケースに効力を発揮するわけではなく、流産予防に適する”便利な万能薬”ではないのです。

漢方は「病名」ではなく「証」で処方を決めます
ここが現代医学と漢方の最も大きな違いです。
漢方は病名を治療する医学ではなく、その方の体質や病態、すなわち「証」を整える医学として発展したものです。

たとえ同じ「不育症」という診断名でも、
– 腎虚が主体の方
– 血虚が主体の方
– 瘀血が主体の方
– 気虚が主体の方
– 痰湿・水滞が主体の方
では、選択される漢方薬はまったく異なります。

病名だけで柴苓湯を選ぶことは、西洋医学の理論に則り漢方薬を用いでいるのであり、”漢方薬を用いる”という点は同じでも、本来の漢方治療とは別物なのです。

柴苓湯が適するのは「水滞」を伴う少陽病の病態
柴苓湯は、小柴胡湯証に五苓散証が加わった病態を目標とします。

つまり、
– 水分代謝が低下している
– むくみやすい
– 胃腸機能が十分に働いていない
– 口が苦い
– 胸脇苦満(胸や脇の張りや圧痛)
– 悪心や食欲不振
など、「少陽病」と「水滞」が重なった状態が適応となります。

逆に、水滞が目立たない方では、本来の適応から外れる可能性があります。

妊活で多く見られるのは「腎虚」「血虚」「瘀血」
一陽館薬局で妊活相談を行っていると、不育症や着床不全を繰り返す方の多くに共通してみられるのは、
– 加齢による腎精不足
– 慢性的な血虚
– 子宮周囲の瘀血
– 気虚による保持力の低下
などです。

これらは、妊娠を維持する力そのものに関わる病態と考えられ、補腎・補血・補気・活血などを中心とした治療が優先されることも多く、柴苓湯の適用範囲とは異なります。

「柴苓湯が効かない」のではありません
誤解していただきたくないのは、柴苓湯が悪い漢方薬ということではありません。
問題なのは、「証」が合っているかどうかです。

漢方には「方証相対(ほうしょうそうたい)」という考え方があります。
処方には、それぞれ対応する「証」があり、それが一致した時に最も力を発揮します。

反対に、どれほど優れた漢方薬でも、証が異なれば十分な効果は期待しにくくなります。

つまり、「柴苓湯が効かなかった」のではなく、「柴苓湯を必要とする証ではなかった」という可能性も考える必要があります。

まとめ
不育症という病名だけで柴苓湯を選ぶことは、漢方医学本来の考え方とは異なります。

妊娠を維持するためには、
– 腎精が充実しているか
– 血が十分に養われているか
– 気が胎児を支える力を備えているか
– 瘀血や水滞が妨げになっていないか
などを総合的に判断し、その方の証に合わせて処方を選択することが重要です。

妊活における漢方治療は、「病名に薬を合わせる」のではなく、「体質に薬を合わせる」ことから始まります。

それが、漢方ならではのオーダーメイド医療であり、妊娠しやすい体づくりへの近道につながると私たちは考えています。

漢方薬・生薬認定薬剤師 樫谷陽子

妊娠への体づくりに近道はないかもしれません。
でもあなたにとっての最短ルートはあるはずです。

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