妊活に不向きな漢方薬3種
今回は、よくご相談いただくテーマについてお話しします。
病院でも最近は処方箋漢方薬を出されることも増え「漢方薬なら身体に良いはず」と思って、ご自身で購入される機会もある、とお聞きします。
でも、実は漢方薬にも”妊娠に向けた体づくりには不向きなもの”があります。
今回は、特によく使われているにもかかわらず、妊活の観点からは注意が必要な3つの処方を、漢方の視点からお伝えします。
①当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
「妊活といえば当帰芍薬散」と思っている方、とても多いですよね。
婦人科系の代表的な漢方薬として知られ、妊活中の女性にも広く使われています。
しかし、これが妊活に向いているかどうかは、体質によって大きく異なります。
当帰芍薬散の処方構成を見てみましょう。
当帰・芍薬・川芎・茯苓・白朮・沢瀉の六味で構成されています。
注目する点は、沢瀉・茯苓・白朮という利水薬(体の水分を排出する生薬)が多く含まれていることです。
漢方では、妊娠の成立と維持には「腎精(じんせい)」と「血(けつ)」が十分に満ちていることが大前提です。特に着床・妊娠継続には、子宮内膜を養うための「血」をしっかり蓄えることが必要です。
ところが当帰芍薬散は、もともと「水毒(すいどく)」=体内の水の滞りを抱えた、ひと言で言えば「むくみをとるための処方」です。
確かに血を補う当帰・芍薬は入っていますが、利水薬の割合が高く、体の潤いまで奪ってしまう可能性があります。
妊活で本当に必要なのは「陰血(いんけつ)を充実させること」にあります。
“潤いを流し出し続ける処方”を妊活期に漫然と飲み続けることは、子宮内膜や卵子の質、ホルモンの充実という観点から逆効果になりかねません。
これは、「漢方薬の副作用」ではなく正しい作用であり、使い方間違い=「誤治(ごち)」なのです。
「なんとなく女性の漢方だから」という理由で選ぶのは、選択基準としては乏しいと思います。
②八味地黄丸(はちみじおうがん)
八味地黄丸は、腎陽虚(じんようきょ)といった、つまり腎の陽気が衰えた状態に用いる代表的な補腎薬です。冷え・夜間頻尿・足腰のだるさなどに効果があり、「腎を補う漢方薬=妊活に良い」というイメージから選ばれることがあります。
一見、妥当な選択に見えますがNGです。
八味地黄丸の構成は、六味地黄丸(地黄・山茱萸・山薬・茯苓・牡丹皮・沢瀉)に桂皮と附子を加えたものです。
この桂皮と附子は、強い「温熱薬(おんねつやく)」であり、体を温めて陽気を動かす作用があります。
妊活〜妊娠初期において、漢方では「血熱(けつねつ)を避け、胎を安定させること」が重視されます。
着床前後の時期に過剰な熱性薬を用いると、子宮環境に余分な熱をもたらし、着床の妨げや初期流産リスクにつながると考えます。
特に、附子は「峻烈(しゅんれつ)な薬」として古来より妊婦への使用が禁忌または慎重投与とされてきました。
これは単なる慣習ではなく、附子の強い陽気を動かす性質が、胎の気を乱す可能性があるという漢方理論に基づいているからです。
「腎を補う=妊活に良い」は正しいのですが、腎陽を強引に温める八味地黄丸は、特に卵胞期〜高温期〜着床期にかけての繊細なホルモンバランスの時期には、体質を見極めた慎重な判断が必要となるものです。
陰虚(いんきょ)傾向や熱証のある方には特に不向きです。
③柴苓湯(さいれいとう)
柴苓湯は、小柴胡湯と五苓散を合わせた処方で、炎症を抑え、水の偏りを整える作用があります。
不育症や習慣性流産の分野で用いられることがあるため、「流産を防ぐ漢方」として認識されているかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、これは大きな誤解です。
柴苓湯はあくまで「炎症性の水毒病態」=浮腫・下痢・発熱・炎症反応が顕著な状態に対応した処方であり、体質改善や妊娠維持力を高めることを目的とした処方ではありません。
漢方の視点から特に問題なのは、柴苓湯に含まれる柴胡(さいこ)と黄芩(おうごん)です。
この組み合わせは強い疏肝・清熱(肝の鬱を解き、熱を冷ます)作用を持ちます。
妊活期において、肝気(かんき)の流れを過剰に動かすことは、子宮・卵巣への血流の集中を妨げ、「血を胞宮(ほうきゅう=子宮)に集める」という妊娠の基本的な体づくりに反します。
また五苓散成分による強い利水作用は、先ほどの当帰芍薬散と同様、体の潤い・陰血を消耗させるリスクがあります。
さらに、柴胡剤は「気を上に動かす」性質を持つため、長期常用すると「気の上衝(じょうしょう)」を引き起こしやすく、精神的な不安定・イライラ・睡眠障害を悪化させることもあります。
妊活中のメンタル安定という観点からも、長期服用は避けていただきたい処方です。
妊活における漢方の基本は、「腎精と陰血を充実させ、気血の流れを整え、子宮環境を温かく潤いのある状態に保つこと」です。
今回ご紹介した3つの処方は、それぞれの適応病態には有効な処方ですが、妊活という目的に対してはその作用の方向性がずれていたり、体の潤いや陰血を損なうリスクがあったりします。
「漢方だから安全」「女性向けだから大丈夫」という思い込みで漫然と服用するにはリスクがあります。
体づくりには、妊活に適した漢方を選択されるべきです。
あなたの体質・証(しょう)に合った処方こそが、本当の意味での妊活漢方です。
一陽館薬局では、お一人おとりの体質を丁寧に見極め、妊娠に向けた体づくりをサポートしています。
お気軽にご相談ください。




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