流産後の心の回復に
流産後、時間が経っているはずなのに、気持ちが前に進まない、理由もなく不安になる、涙が出る・・とご相談いただくことがあります。
心療内科や精神科を受診したものの、薬を飲むとしんどさが増して続けられない、と言われるかたもおられます。
このような状態は、気持ちの切り替えで済む問題ではありません。
漢方では、”心と体はひとつ”という考えが基本にあり、流産後の心身の状態を「気血の同時消耗」と「腎の弱り」として捉えます。
妊娠の維持には、
気=生命活動を動かすエネルギー
血=心と身体を養う栄養
そしてその根本にある「腎」が関与しています。
漢方では「腎は精を蔵す」と考えます。
この「精」は、成長・生殖・回復力の源であり、妊娠を支える最も大切な力です。
妊娠中、身体はこの「腎精」を使って赤ちゃんを育てるのです。
流産は、精神的な出来事であると同時に、腎精を大きく動員した結果として起こる、非常に消耗の大きい出来事でもあります。
さらに流産では、出血を伴うことが多く、「血」も同時に失われます。
漢方には「「心は血を蔵し、血は心を養う」という考え方があります。
心(しん)は精神活動を司り、血によって養われ、安定を保っています。
そのため、流産後に血が不足すると、心は十分に養われなくなり、不安感、悲しみの強さ、動悸、不眠、情緒の揺れといった形で現れやすくなります。
ここで重要なのが、「心」と「腎」は互いに影響し合っている
という点です。
漢方ではこれを「心腎相交(しんじんそうこう)」と呼びます。
腎は下から心を支え、心は上から腎を温め、導くという相互にバランスをとり合う関係にあります。
通常、この連携が保たれていると、精神は安定し、不安感も過度になりません。
しかし流産後は、”腎精の消耗””心血の不足”が同時に起こるため、心と腎の連携が一時的に崩れやすくなります。
すると、「頭では理解しているのに気持ちが追いつかない」「次のことを考えると不安が先に立つ」といった、理由のはっきりしない心の揺れが起こります。
では、回復にはどれくらいの時間が必要なのでしょうか。
個人的な見解を含みますが、
・血を補い、心を再び養うまでにおよそ3か月
・腎精を守り、心腎のバランスが整うまでに6か月前後
を一つの目安として考えます。
これは、「血が新しく生まれ変わる周期」、「ホルモンと自律神経が落ち着くまでの時間」、「心が再び血に養われ、安定を取り戻す過程」、これらを踏まえた目安です。
この回復の途中で、無理に前向きになろうとしたり、治療を急いで再開すると、気血や腎の立て直しが追いつかず、心の不安定さが長引くこともあると考えます。
漢方では、
・心が自然に落ち着いてくること
・身体が次を受け入れる余力を取り戻すこと
この二つが揃って、はじめて「次の段階」と考えます。
一陽館薬局では、流産後すぐの時期には、妊娠を目指すための相談よりもまず、気血を補い、腎を守り、心腎のバランスを整えることを優先しています。
回復には、その方に必要な時間があります。
整った心と身体は、きっと自然に、次の一歩を選べる力を取り戻されることでしょう。




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